「こっつこっつー」
体育館の反対側から手招きでおいでおいでと呼ばれました。
行って話しをしてみたら、海でアサリを取る仕事をしている
ご夫婦でした。
ここはスペースが広くて操法も不自由なくできそうです。
初めは腰痛のおじいさんです。
名前は「アサリじぃ」と名づけました。
アサリじぃは、朝起きるときに腰が痛いのとふくらはぎが
張って時々引きつって痛くなると言いました。
「アサリは閖上の市場で売るのですか?」
「いやいや、東京どがそっちの方さやるんだ」
「へぇー」
そんな話をしていたらアサリじぃのアサリ取り仲間の
アサリじぃ2がやってきました。
「いやー、はっぱりだめだーアサリなんていねー!」
とニコニコ元気よくドデーンと座りました。
毎日自転車で海まで行ってくるのだそうです。
家も仕事もなくなってしまっているのにこのアサリじぃ達
はどうしてこんなに明るく振舞えるのでしょう。
私は少し信じられませんでした。
知らない私がそばにいるので、気を使ってそうしてくれた
ような気もしました。
きっと、すごく悲しくてくやしいんだと思います。
なので、そんな心使いが嬉しくもありさみしくもありでした。
とにかく、私はアサリじぃに膝を立ててもらって操法を
始めました。
膝ウラを触ってみるとゴリゴリで、ふくらはぎもパンパンに
張っています。
「あらら、ずいぶん張っているごどぉ」
私も山形の出身なのでよくなまります。
「なまってしゃべられると、つい写ってしまうぜ」
こういう濁音やなまりって、どことなく暖かい感じがしますね。
私だけかもしれませんけど。
さて操法です。
「つま先を上げてー」
「ストン!」
「ほら、やわらかくなった」
「あれっ」
「なおった!」
「うそだべー」
「ほんとだー!」
「なんだこれー!」
ここで立って歩いてもらおうと思ったら、急にアサリばぁ
(アサリじぃの奥さん)が、
「どごさいったべー?あれー?こごさいれでだのにー」と、
カバンの中のもの次々出して何かを探しはじめたのでした。
「なんだべこんなどぎにー」
私はそう思って、アサリばぁのお尻の所に落ちている赤い
携帯電話を横目にもう一度つま先上げを練習してもらいました。
「こんな風に自分でやるんですよ」
「一日に何回やってもいいけど一回やったら一時間位マを
置いてやるようにしてください。気持ちのいいようにね」
「どごさおいだのっしゃ」とアサリじぃも少し気になります。
「もしかして赤い携帯電話ですか?」と私。
「はい」
「ほら、そごさあるんでねぇの」
「あらあったー、なんだべまずぅ」
よくわからない赤い携帯電話事件なのでした。
そして、アサリじぃの足ゆらしをやってみました。
気持ちがいいというのでゆったりと静かに続けたら、
アサリじぃはすやすやと眠ってしまいました。
「いやー、なんだがねむぐなるねー」アサリじぃは、
目を覚まして眠そうな顔でそう言いました。
ほんの数分でしたが、ゆりかごにでも乗ってる感じで
心地良さそうなアサリじぃの顔がみられて私もよかったです。
つづく